Research

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触媒反応をはじめ多くの化学反応は,物質の表面あるいは界面で起こる.したがって,物質の表面・界面における微視的構造評価と制御は,化学反応の本質的理解および新機能物質の創出において極めて重要である.本研究室は,古典的な電気化学を基盤としつつ,和周波発生(SFG)非線形振動分光や,単分子分光,顕微分光, 走査型プローブ顕微鏡などの最先端計測技術を駆使し,物質表面・界面に起こる化学反応の動的挙動を高感度に捉え,表面・界面構造と反応活性との関係を調べ,表面構造設計による新規材料の創製を目指す.

なかでも高効率の二次電池電極触媒の開発や表面構造制御によるソフトマターの高機能化を目指して, 分子・原子レベルでの理解に基づく研究に取り組んでいる.また, 非常に巧妙に制御され組織化されている光合成を中心とした生体中の光反応の機構解明にも取り組んでいる.

当研究室は,「界面・表面」・「構造」・「機能性」をキーワードにした物理化学と電気化学の最先端研究にチャレンジしています.

研究課題:高性能電極触媒の開発

電極触媒の界面構造制御による高性能電極触媒の開発でリチウム空気二次電池への応用

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化石エネルギーの枯渇と地球温暖化を防ぐことは全人類の存亡にとって喫緊かつ最重要の課題となり,化学エネルギーを電気エネルギーに高効率で変換できる二次電池や燃料電池の実用化が急務である.そこで,我々は電極触媒活性の電極-溶液界面構造の依存性を系統的に調べ,高性能電極触媒の開発を目指す.

例えば,リチウムイオン二次電池中におけるコバルト酸リチウム(LiCoO2)電極と実用電解質溶液との界面をSFG分光法で調べた結果,いずれの電極表面において,ECやPCのような環状カーボネート溶媒分子は,DMCやDECのような直鎖状カーボネート溶媒分子より,選択的に吸着されることを初めて見出した(図).リチウムイオン電池の充放電過程とともにこの溶媒分子の吸着構造の変化や,電池耐久性を深く関係する固体電解質膜(SEI)形成との関連についてさらに調べている.

現在,より高い比エネルギー密度を持つ次世代リチウム空気電池の研究開発にも取り組んでいる.特にそのカソード極での電極反応機構の解明をはじめ,充電過電圧の低減,有機溶媒分子の安定性及び電池充放電の可逆性改善などについて詳しく研究し,実用リチウム空気電池の開発に貢献したい.

研究課題:細胞膜表面の反応を追跡する

脂質二分子膜で構築された擬似細胞膜表面での反応に伴い膜構造変化を分子レベルで調べる

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細胞膜は細胞の物質能動輸送,物質代謝等に重要な役割を果たす.これまで細胞膜の構造研究は,多くの場合色素標識により間接的に調べられている.我々は色素フリーの条件下で,SFG振動分光法や走査型プローブ顕微鏡などにより,細胞膜表面での様々な物理過程や化学反応などについて直接に調べている.

例えば,細胞膜の機能性に深く関わっている相転移過程について調べている.モデルとなる脂質二分子膜の相転移過程は,約10℃の広い温度範囲にわたって観測されている(上図).バルクの脂質分子の相転移とは明らかに異なっている.また,相転移が起こっても伴い細胞膜のコンフォーメーション秩序は維持されている.

このような擬似細胞膜表面において,我々は酵素反応や極低濃度のオゾンとの反応などの反応機構の解明を目指し,分子レベルの研究を展開している.

研究課題:高分子の表面構造制御で機能性解明

高分子材料の表面構造の解明で,新しい機能性を発現させる方針の開拓

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高分子材料は重要な機能材料として生体関連分野に広く応用されている.生体系に応用される高分子材料は,表面の分子構造がその材料の機能性と強く関係しているものと考えられるので,表面分子構造の評価と制御の重要性がますます増えている.しかしながら,高分子の表面構造を選択的に評価する手法がないため,その内容について殆ど解明されていない.そこで,我々は界面分子構造に極めて敏感であるSFG分光法を用い,種々の高分子材料の界面構造解明に挑戦し,その機能発現機構を理解し,新規高分子材料の分子設計の指針確立を目指している.

例えば,田中賢教授(現在,九州大学先導化学研究所・教授)が開発された高分子材料のポリ-2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)は優れている血液適合性を示し,生体材料としての応用が期待されている.我々はPEMAをはじめ,一連のポリアクリレート系高分子材料の表面分子構造について分子レベルで調べている.上図に示すように,水中及び空気中に観測されたこれらの高分子の赤外スペクトル(バルク構造に対応)とSFGスペクトル(表面構造に対応)から,PMEA表面においてのみ,カルボニル基は水分子と特異的水素結合を形成する状態が観測されている.このような構造は,他のポリアクリレートに観測されていないことから,PMEAが特有する血液適合性との相関が示唆されている.

研究課題:光で単一分子の挙動を測る

植物に巧妙に組織化されている光合成分子の光反応の機構解明

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たった一つの分子からの蛍光を検出する単一分子分光法は1990年頃に実現しこの手法から派生した超解像顕微鏡技術は2014年のノーベル化学賞の対象になりました. 単一分子分光法により, 多数の分子を観測していた場合には見えなかった分子振動のシャープなスペクトルが検出できるようになったり, スペクトル位置が時間とともに揺らぐスペクトル拡散と呼ばれる現象や蛍光強度が揺らぐブリンキングと呼ばれる現象が見えるようになったりします. 我々は, 光合成タンパク質に対して単一分子分光の研究を行い, 蛍光強度が揺らぐブリンキング現象を初めて検出し, 光合成タンパク質でもちょっとした構造の揺らぎによって光を集める効率が変化することを明らかにしました.

研究の詳細

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